大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和24年(タ)91号 判決

原告 小林正助

被告 小林葉子

主文

一、原告と被告とを離婚する。

二、原被告間の未成年の長男正憲(昭和二十一年十月十一日生)の親権者を被告と定める。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

主文第一項、第三項同旨の判決及び未成年の子正憲の親権者を原告と定める旨の裁判を求め、その請求の原因として、

一、原被告は、昭和二十年十一月二十五日、事実上の婚姻を為して同棲し、昭和二十一年六月十四日、その届出を了した夫婦で、その間に、昭和二十一年十月十一日長男正憲が出生した。

二、然るところ、被告は、昭和二十三年十月八日、原告の不在中に荷物を取りまとめ、長男正憲を伴つて原告に無断で仙台の実家に帰り、爾来、原告から再三に亘り、自身又は仲人を通じて、復帰方の懇請があつたに拘らず、正当の理由なくして之を拒絶し、原告の許に復帰しないで、現在に至つて居る。

三、右は明かに悪意を以て、原告を遺棄したものであるから、原告は民法第七百七十条第一項第二号によつて、被告との離婚を求める。

三、尚、未成年の子正憲の親権者は、諸般の事情を考慮の上、原告と定められ度く併せて申立に及ぶ。

と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は

答弁もしないし、証拠も提出しない (第一回口頭弁論期日には出頭したが答弁をしないで退廷し、その後の口頭弁論期日には一回も出頭しない。)

理由

一、原被告が、適法に婚姻した夫婦で、その間に、原告主張の日に長男正憲が出生したことは、公文書である甲第一号証(戸籍謄本)によつて明白である。

二、被告が、原告主張の頃、原告の許を無断で立ち出で、仙台の実家に帰り、爾来原告の再三の懇請があつたに拘らず、正当の理由なくして原告の許に復帰せず、そのまま現在に至つて居ることは、証人増淵平雄、同丹野清の各証言並びに原被告各本人尋問の結果(但し原告は第一、二回共)を綜合して、之を認め得る。右認定を動かすに足りる証拠は一も存しない。

三、右認定の事実に徴すると、被告は悪意を以て原告を遺棄したものであると認めるに十分であるから原告の本件離婚の請求は正当である。

四、原被告間の前記未成年の長男の親権者は原被告各本人尋問の結果(但し原告は第一、二回共)によつて認められるところの、被告が現に右長男を養育して居る事実、原告が既に事実上他の女性と再婚してその間には男子が出生して居る事実、及びその余の諸事情を考慮し、之を被告と定めるのが相当であると認める尚、原告は、右長男の親権者を原告と指定され度い旨の申立を為して居るのであるが、被告を親権者とするのが相当であること前記の通りであるから、原告の右申立は理由がない。

併しながら、離婚の裁判を為す際に於ける親権者の指定は裁判所が職権によつて、之を為すものであつて、当事者の申立に拘束されるものではないのであつて、その申立はその性質に於て当事者が親権者と指定され度いと申立てる者に、之を親権者とするの正当性又は適格性がある旨の主張と解するのが相当であるから、その申立が理由のない場合は、結局右主張の理由がないことに帰着するだけのことである。従つて理由中に於て、その理由のないことを判断すれば足り、特に主文にその申立を却下する旨を掲記する必要はないと云へるから、その申立却下の言渡はしない。

五、仍て、原告の離婚の請求は之を認容し、子の親権者の指定について民法第八百十九条第二項を、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を各適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 加藤令造 田中宗雄 田中正一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例